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- <2014年度> インド・バングラデシュの豪雨と大洪水のメカニズムを探る 寺尾 徹
インド・バングラデシュの豪雨と大洪水のメカニズムを探る・・・・・・・・・・寺尾 徹
私の今の気象研究フィールドのひとつは、インド亜大陸北東部=バングラデシュとインドの北東部アッサムとメガラヤの諸州です。ここは、ユーラシア大陸と周辺の海域全体の気候の年サイクルを支配し、日本にも四季をもたらす巨大な気候システム、アジアモンスーンの心臓部です。ここにたくさんの雨量計や気象観測装置を配置してデータを取りながら、アジアモンスーンの変動メカニズムを探ります。あたたかなベンガル湾を吹き渡って水蒸気をいっぱい含んだモンスーン南風がこの地域に吹き込み、チベット高原南側の広大な地域に大量の雨をもたらし、ガンジス ・ブラマプトラ・メグナの3大河川を流れ下って、ベンガル平野に流入。バングラデシュでは毎年平均して国土の約20%が水に沈みます。バングラデシュのすぐ北側のインド領にあるメガラヤ山脈の南斜面は特に豪雨地帯として知られ、Cherrapunjeeの測候所は年間降水量26,461mmの世界記録を持っています。高松の年間降水量平年値の実に24倍以上です。この大量の雨を降らす雲が発生するときに解放される熱エネルギーが、夏季アジアモンスーン循環の力の源となっています。
雨の降り方には年によって違いがあります。とくに、1988年と1998年には記録的な豪雨となり、バングラデシュの洪水面積は国土の50%を超え、大きな被害が発生しました。こうした極端な大洪水はどのようなメカニズムによって発生するのでしょうか? 解明されれば、何か月も前に予測して被害も軽減できるようになるかもしれません。
バングラデシュに大洪水をもたらすきっかけの一つが、その前年の太平洋の「エル・ニーニョ/南方振動現象」(略してENSO)と呼ばれる気候システムに隠れているのではないか? 20世紀の終わりころになって、こういう主張が登場しました。インド亜大陸北東部の雨の降り方と、ENSOの振舞いに統計的に有意な相関が見出されたからです。21世紀に入って、「冬に最盛期を迎えたエル・ニーニョが春に急速に終息する年、インド亜大陸北東部の雨は多くなる傾向がある」ということがわかりました。私はこのメカニズムを分析し、エル・ニーニョの影響によるインド洋の海面水温の昇温が翌年の夏まで持続し、大気の流れを変えて西部北太平洋の雨を強く抑制し、大気波動となってインド亜大陸北東部に伝播して雨の降り方を変えていることを明らかにしました。
このような大規模な気候システムの長周期変動の様子は、ちょうど学童の間ではやりの遊び方がいつの間にか移ろっていくさまに似ています。ある時期にメンコがはやったかと思うと、数か月の間にいつの間にかコマに興味が移り、やがてヨーヨーにみんなが興じるようになる。明日のメンコの戦略を練る日常という階層のメカニズムの背後には、メンコからコマへ、コマからヨーヨーへと移ろっていく遊び方の長周期変動をつかさどる集団意識という、謎の別階層のメカニズムが隠れているわけです。
モンスーンという気候システムを背後でとりしきる謎の演出家の正体を探ること。 この仕事に、日本・世界の研究仲間たちと没頭しています。
*寺尾先生のプロフィールを大学フォト内に掲載していますので、ご覧ください。
香川大学メールマガジン 第185号 2014年4月28日