◆◇◆◇◆◇⇒《カダイ・ラボ》
「タンパク質の形からわかること」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小森 博文
私たちの体の中では、目には見えない小さな物質(分子)がたくさんはたらいて
います。エネルギーの源となる糖類や遺伝情報を担う核酸、そしてタンパク質など
です。生命活動は、これらの分子の化学反応によって駆動しています。なかでもタ
ンパク質は化学的な性質が多様で、いろいろなはたらきをします。ものを見たり、
食べたり、歩いたりするのもすべてタンパク質のはたらきによるのです。タンパク
質が我々の命を支えていると言っても過言ではありません。特に、化学反応の手助
けをするタンパク質(酵素)はとても重要です。酵素の特徴は、鍵と鍵穴の関係に
たとえられます。酵素(鍵穴)は、特定の物質(鍵)だけを認識することで化学反
応を行い、新しい物質をつくりだしたり分解したりします。この化学反応によって、
私たちは体の組織をつくったり、動かしたりしているのです。鍵穴の“形”が分か
れば、どのような鍵(物質)と反応するのか、あるいはどのように化学反応が進む
のかもわかるようになります。そして、鍵穴をうまくブロックすることができれば、
酵素のはたらきを抑えることもできるのです。病気に関わる酵素の場合には、薬を
開発することも可能です。例えば、タミフルという薬は、インフルエンザウイルス
が増殖するために必要な酵素の鍵穴にぴったりと入り込むようにコンピューターで
設計(ドラッグデザイン)されてつくりだされました。医薬品の開発の他に、酵素
は、人工的にはとても真似のできない優れた能力をたくさんもっていますので、こ
のような酵素をタンパク質工学によって改良し、産業応用しようとする研究も進ん
でいます。タンパク質は、何億年もかけてその機能を進化させてきました。私たち
は、その力を利用するためにタンパク質の“形”を研究しています。
しかし、タンパク質の形を見るのはたいへんです。タンパク質の大きさは、細菌
よりもはるかに小さく、光学顕微鏡で観察することはできません。可視光の代わり
に、X線を使うことで、1億分の1cmほどの大きさしかない原子の位置まではっき
りと見ることができます。私たちの研究室は、兵庫県にある大型放射光施設SPring
-8の強い光(X線)を利用して、タンパク質の形を見ています。詳しい内容は、ホ
ームページをご覧下さい。私の専門分野は化学ですが、研究の対象は“生物”、そ
れをX線回折という手法(“物理”)を使って、“化学”の言葉で理解しようとし
ています。教育学部には、分野の異なる先生方がたくさんいらっしゃいますので、
幅広くいろいろなことを学ぶことができます。研究を通して、私たちの身体のこと
や身の回りのことをより深く知ってほしいと考えています。
この原稿を執筆中に、2013年のノーベル化学賞の発表がありました。研究内
容は、“タンパク質の化学反応をコンピューター上でシミュレーションする方法の
開発”です。この手法には、基本となる実験データ(タンパク質の形)が不可欠で
す。まさに理論化学と実験化学が両輪となって、新薬開発の研究は進んでいくので
す。
研究室ホームページ http://www.ed.kagawa-u.ac.jp/~komori/
小森先生のプロフィールを大学フォト内に掲載していますので、ご覧ください。
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香川大学メールマガジン 第179号 2013年10月28日
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