★☆★☆ ⇒《話題!!》
新刊書「タバコ有害論に異議あり!」について・・・上杉 正幸先生に聞く・・・
――先生は最近、刺激的なタイトルの本を出版されましたが、まず、先生の専門分
野を聞かせて下さい。
うえすぎ:私は現代社会の健康問題を社会学的な観点から研究し、教えています。
1970年代後半から、日本人は健康を最も大切な価値と考え、「もっと健康にな
りたい」という欲求を肥大化させてきました。政府や医学界も健康づくりの重要性
を叫び、経済界やマスコミ界も人びとの健康欲求をあおってきました。このような
健康社会に潜むパラドックスを解明し、健康社会が幸せな社会なのかどうかを考え
るのがテーマです。
――タバコ排除が進む中で、今回出版された本の趣旨は何ですか?
うえすぎ:現在タバコについて、健康問題と好き嫌いが混同され、情緒的な反応が
強まる中で排除運動が進んでいます。その運動に惑わされず、学者として「タバコ
は健康に悪い」という言説を科学的、論理的に考えてみよう、というのが趣旨です。
――本の内容は?
うえすぎ:この本は2章構成になっています。第1章では、医学博士の名取晴彦先
生が「タバコは健康に悪い」という主張の根拠とされる医学的データを検証し、そ
こに含まれる統計のトリックを解明しています。タバコと肺がんの関連を示すデー
タや受動喫煙の危険性を示すデータにはトリックが隠されているのです。第2章で
は、私が「健康とは何か」という観点から、喫煙者を病人とみなし、排除する社会
は病気の社会だということを説明しています。
――タバコは健康に悪くないということですか?
うえすぎ:煙を吸い込むのですから、悪くないはずはありません。
しかし、精神的効用というメリットもあります。良くもあり、悪くもありです。
私の論点は、悪いものを全て捨てられますか、全て捨てると人生は充実するのです
か、ということです。
――現代のタブーに挑戦する話のようですが?
うえすぎ:そのとおりです。現代人は健康に悪いものを排除すれば健康になれると
考えています。しかしそれは幻想です。慢性疾患が中心の時代に、健康に悪いとい
われる危険因子は次々と現れます。
したがって、タバコを悪とみなして排除すると、不規則な食事や睡眠もダメ、お
やつもダメ、酒もダメ、運動不足もダメ、肥満・痩せもダメ、熱い風呂もダメ、紫
外線もダメ、車もダメ、携帯電話もダメ・・・となります。そして最後は、「年を
とるのが一番悪い」となります。なぜなら、老化こそが最大の危険因子なのですか
ら。このような社会が本当に健康な社会、幸せな社会といえるでしょうか。
――タバコだけに限らないということですね。
うえすぎ:なぜタバコだけが悪いといえるのですか。そこに好き嫌いが入り込んで
いるのです。タバコ排除運動に隠された最大の問題は、好き嫌いで物事を判断し、
嫌いなものを排除しようとする風潮が拡がることです。禁煙ファシズムといわれる
のは、そのことを指しています
――では、香川大学の喫煙対策はどうあるべきだと思いますか?
うえすぎ:大学が学問の府である限りは、好き嫌いで判断するのではなくて、客観
的、論理的に論じるべきです。その上で、だれにも好き嫌いはありますから、共存
を図る方向で対策を立てるべきです。
全国の大学に先駆けて「タバコを吸う人と吸わない人が共存するキャンパス」を
作れば、きっとモデルになるでしょ。
――最後に一言。
うえすぎ:あとは本を読んでみて下さい。洋泉社、780円です。
(うえすぎ まさゆき、スポーツ社会学、教育学部教授)
香川大学メールマガジン 第66号 2006年12月14日